2012年01月31日

20代のうつ病や適応障害の就労支援

精神科ソーシャルワーカーの就労支援と言えば、就労継続支援A型や就労継続支援B型のほか、作業所(地域活動支援センターV型など)といった社会資源の紹介や利用に関する手続きの支援などが多いと思う。
ほかに、ストレスケア病棟を持つ病院ではうつ病や双極性感情障害患者の復職支援(リワーク支援)が行われ、認知行動療法などホットな話題を集めている。
比較的大きな書店で就労に関する福祉の参考書を手に取ると大半がそうした内容の書籍だった。
しかし、それらの参考書が合致しないケースを担当することもありうる。
以下には架空のケースをもとに考えてみた。

20代でうつ病や適応障害の既往があったり、統合失調症とも判断しがたい微妙なラインの患者がいた。
彼らは就労したいと思ってはいるが、自信のなさや家族関係、社会的背景(就職難)などから就職できずにいた。
能力評価としては比較的高く、本人もスタッフも福祉的就労が妥当とは考えていなかった。
若いころから不登校で社会との接点が少なかったり、元々は一般就労の形で勤務していたが、離職してしまい期間が空いてしまっているなど、一般的な復職支援(リワーク支援)のような型にははまらない状態になっていた。
彼らはデイケアを利用しており、集団での活動を通して就労を目指している。

ここでいう福祉的就労とは就労継続支援のA型およびB型だが、これらの利用には障害者手帳(療育手帳や精神障害者手帳)か、主治医意見書等が必要になる。
彼らは病状が寛解しており、障害者相当の状態とは言いづらい。
そもそも、本人が福祉的就労を望んでいないのだから積極的に検討するのもおかしな話。
復職支援(リワーク支援)とは有職者が休職中の状態で数か月後に復帰が見込まれるか、症状が治まったら再びすぐに求職活動に移れるような患者を支援する内容がほとんどである。
彼らは短期間(ここでは半年ほど)では就職活動をしたり、実際の仕事をこなすのは困難が感じられる状態である。そういう意味では適応障害的な特徴を持っている。

デイケアにてワーカーが行った支援は、彼らの目標(いつまで、どんな職種、どの勤務形態かなど)を聞いたり、彼らの特技を聞き出すなどアセスメントが中心になっていた。
彼らはデイケアでの集団療法によって対人関係スキル等に改善が見られたが、就職に関しては今一つ進展が見られない状態が続いていた。

以上のような状況で、自分なりにこうしたケースをどう支援していけばよいか考えてみた。
以下にポイントになりそうなものを挙げてみた。
・20代の社会観
・現代の求人内容
・20代の本音と建て前

まず、20代の社会観から。
記事執筆時点の2012年1月現在の私見によるものなので、これが真実とは限らない点に注意してほしい。
彼らは小中学校頃から携帯電話が一般化しており、少なくとも高校生頃には携帯電話を手にした人がほとんどである。
1990年代のバブル崩壊を、彼らがまだ幼い時期に経験したため一つの社会現象という捉え方ができず、何をやっても右肩下がりという経験をしていることも多い。
また、本人だけでなく家族がそうした社会背景におかれた結果、親のストレスが子供である本人たちに悪影響を及ぼしているケースも少なくない。
対人関係が苦手な人はインターネット社会に逃げることができるようになっている。
インターネット上では無料で遊べるゲームが星の数ほど存在しており、遊ぶ材料に事欠かず、また少数でも同じような趣味を持ったリアルな友人がいれば心細い思いをすることがない。
携帯電話によるインターネットの利用、最近であればスマートフォンを利用できることもあり、彼らにとって利用できる情報資源は数多い。
そういう意味では親世代の常識と彼らの常識は食い違う場面も多い。
たとえば、親「新聞を読みなさい」→20代「携帯やネットでニュースを見ればいい」というものが象徴的だろう。
親は彼らが携帯やパソコンで何をしているかよくわかっていないし、彼らがそうしたことをやっているとも思っていないが、親が言葉で発した内容は彼らの携帯やパソコン上でいつでもどこでも好きな時に短時間で効率よく行える。
また、情報の多さが時として災いしているケースも少なくない。
「今は不景気だから何十社も面接を受けないと受からない」という情報を見て対人関係を苦手とする彼らはそんなにたくさん面接を受ける勇気がないと尻込みし、「働いても自分たちの老後は年金をもらえない」と聞けば反社会的な価値観が形成され、「どうにもならなかったら生活保護がある」という言葉に本心ではいけないと思いつつも、その言葉を借りて現実逃避を図ってしまったりする。

現代の求人内容について、まず不景気である。
求人自体が少ないことと、それに伴い競争率が激しくなっており、対人スキルを苦手とする人たちは就職活動で出遅れることが多い。
90年代以前に比べて仕事が多岐にわたり、複雑になっている傾向がある。
小売・販売業一つにしても、昔は品物に書かれた値札を見て電卓をたたき、お金のやり取りをすればよかったのに対し、現在主流のコンビニでは高度に情報化されたレジスターに顧客の年齢、性別などを入力したり、店内の商品のみならず持ち込みの宅配サービスや電子決済サービスの利用などがある。商品にも電子マネーがあったり、店内に銀行ATMや情報端末連携のコピー機もある。それだけ現代の仕事は頭を使う仕事が増えている。
正社員として働く人は往々にして残業が当たり前の職場になっており、非正規社員になると会社次第ではワーキングプアという状況にもなりかねないほど、過酷で薄給の職場も増えている。
過去に話題となったフリーターも、現在は新たに40代や50代の男性が応募し働いているような状態であり、アルバイト就労者の平均年齢にも上昇がみられる。
2000年(平成12年)以降から介護保険の影響もあり介護職の求人が増えたが、労働の負担と給与のバランスに不満を訴える者が多く、雇用の創出にはなり得ても安定が図れているとは言い難い。

20代の本音と建て前について、彼らは本心ではどうにかうまいこと社会適応したいと考えている。しかしながら、現実がうまく行っていないがために表面的につくろって行動しなかったり、あるいは表だって自分には無理だと逃げたりする。

以上のように、潜在的に何をやってもうまく行かないという刷り込みと、仕事のハードルの高さからあきらめてしまう人が多い。これは精神科の患者に限らず多く見られるように思う。また、精神科の患者を支える家族の認識が本人とかみ合わないために就労がうまく行かないこともある。

これらの背景を踏まえ私が考えた就労支援は、自分のやりたいことを整理するという通常の就職活動の一歩手前を支援することではないかと考えた。
結局のところ、彼らは就職に対する道筋、あるいは就労後の自分の人生に大きな不安を抱いているのだと思う。
どんな仕事に就くのがいいのか、その仕事が自分に向いているのか、給与などで今後不利にならないかなど不安は尽きることがない。
従来はこうした不安を親や周囲の先輩がサポートしてきたが、景気の悪化でどうにもならない現実や、親とのジェネレーションギャップの大きさ、コミュニケーションの希薄化からくるサポートする人間の不在などが障害となって不安は解消されずに残り続ける。

彼らの能力に大きな問題がない以上、就職活動の一歩手前を支援すれば何かしら道は見えるのではないか。
この視点に立って、もう一度自分なりに書店を歩き回って以下のような書籍を見つけた。

 

一つは「新 13歳のハローワーク(村上 龍)」である。
この本は様々な職業を学校での好きな科目や興味のあることから引けるようにしている。
学校教育の現場でも取り上げられるなど、日本の職業教育分野に一石を投じた書籍である。
20代の彼らは思っている以上に多くの職業を知らない。
もっとも、生きてきた中で彼らはそれなりに興味を持った職業を調べてはいるのだが、何かしらの壁にぶち当たってしまい立ち往生しているのである。
そうした中で、再度自分の興味のある分野を見つけるのに良い本であろうと思う。
紹介している職種は514種+89種。(前作と今作合わせ603種)
Amazonのカスタマーレビューにもあるが、多くの分野に平等に注力された内容ではないらしく、そういう意味では他の書籍も参考に検討してほしい。

二つ目は「新版 やりたい仕事がある!(池上 彰)」である。
著者は「週刊こどもニュース」のお父さん役や、「そうだったのか! 池上彰の学べるニュース」などでおなじみの池上 彰である。
本書は記者やキャスターの経験のある著者の視点をコラムに据えたり、一部は実際に職業についている方の体験談を掲載するなど勉強になる内容が多々見られる。
扱っている職業も768種あり、その幅の広さは驚きである。
本書の特徴はエニアグラムという性格分類を使い、自分の性格にもしかしたら合致するかもしれない職業がわかりやすく提示されている点に好感が持てる。
それぞれの職種に説明が書かれているが、具体的なイメージがつかめるほど詳細なものではないため、説明の末尾にある職能団体や学会などのリンクをたどり各個に興味を持った職業について調べる必要はある。
とはいえ、コラムの内容だけでも読む価値はある。(「なぜ働くのか」、「就職氷河期だからこそ得るものもある」等)

これらの書籍を用いることで、彼らの能力を具体的な形にする方向性がつかめないだろうかと考えている。
多くの就活本はエントリーシートの書き方や面接ノウハウ、自己分析などが中心であり、彼らの特徴には今一つ合致しないと感じた。
それらの一歩手前として、紹介した二つの図書が参考になれば幸いである。

 
posted by トモロウ at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 就労支援
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